中途半端なブランドなど邪魔。身軽に生きよう
我々の業界ではかつて「ブランド教」という信仰が世界を覆い、多くの人がブランドを求め原宿・渋谷に殺到しました。現在ブランド教の布教活動はSNSに移り、個人ブランドを伸ばすために必死に映える写真を撮る毎日です。
さて、本当にブランドというのは素晴らしいものでしょうか?
【ブランドは力である。しかし足枷でもある】
結論から言うと「ブランドは素晴らしい」です。
だって、ブランドがあればカッコいいし、尊敬されるし、自尊心も満たされます。それを見てお客様も来てくれる。売上だって伸ばしやすい。
いいことしかないじゃん。
いいことづくめに見えるブランドですが、でも実は。厄介なこともあります。
それは「ブランドに則った行動しかできない」
ということです。
ブランドというのは言い換えると「信用」が積み上がったものともいえます。
ブランドは目に見えません。フォロワーの期待値によって成り立っているものです。
毎回インスタでおしゃれな投稿をしていて、そのおかげで10万人フォロワーがいる人がいるとします。もしその人がダサい投稿をすれば信用が落ちます。なんなら炎上してしまうかもしれない。
ヘタなことはできません。
そうするとブランドに則ったこと以外をすることが難しくなってくる。
慎重にならなくてはいけない。
ブランドは強い。しかし自分の動きを制限される足枷でもあるのです。
【重要なのはマーケット視点で考えること】
ホットペッパーが流行り出した時、よくこんな話を聞きました。
「自分たち安売りはしたくないんですよ」
これはマーケット視点ではなく自分視点で考えてしまっているわかりやすい例です。
自分視点→「安売りしたくない」
マーケット視点→「安くて、上手くて、サービスがいいところがいい、ネット予約は必須、なんなら事前にヘアスタイルの相談もしたい」
自分視点とマーケット視点が大きく違うことがわかりますね。
中途半端なブランドで変なプライドまであると、このワナからなかなか抜け出せません。
「超絶ブランド力があってカット1万円でもお客さんがバンバン来て、むしろお断りしている」とかであればわかりますが、そうでない場合、自分たちの都合を優先することはマーケット感覚からかけ離れているといえます。
また、現在カット1万円でバンバンお客様が来ていたとしても未来はどうなるかわからない。
マーケットの情勢が変わるとあっという間にお客さんが来てくれなくなる可能性があります。かつてのカリスマ美容師ブームの時も「上がって落ちる」状況をたくさん見てきました。
一度プライス水準を上げるとそこから下げることはかなり難しくなってくる。
中途半端なブランドを会社全体に適応すると、どんどん会社の動きは鈍くなっていきます。移り変わりの早いマーケットに対応することはますます難しくなります。
【ブランディング単体での差別化は時代遅れ。マーケティングで差別化を狙え】
1990年代以降、ヘアサロン業界においてずっと盲信され続けてきたのが「有名サロン」というブランドを目指せ。ということ。有名サロンと言われる美容室は原宿・渋谷界隈に集まっていたので就職希望者も皆中央を目指したワケです。僕もその一人でした。
当時はまだまだ地方と中央の技術的・センス的・ブランド的格差はありました。しかし今はほとんどない。場所というより店や個人による。
昨日の記事でも書きましたが、格差が解消された背景には「情報格差」が解消されたことが大きく関係しています。
↓
格差社会とは学習格差である【稼ぎたいなら勉強しろ】
一昔前、やる気のある美容師は月一回発行される業界誌や一般誌を血眼になって勉強し「やっぱり東京ってすげーな、自分も頑張ろう。なんなら自分も原宿で働きたい」となっていたワケですが、今ではインスタとか見れば上手なスタイルとか作品イメージがゴロゴロあって、動画での技術解説まである。
むしろ技術力とかセンスで差別化を測るのは一部の超絶上手くて個人ブランディングも突出している美容師以外至難の技でしょう。
ということで、かつては原宿ブランドみたいなところで簡単に差別化図れていた状況が難しくなりました。
逆に注目を集めたのがホットペッパーなどのネット広告。
かつて美容業界の広告というのは雑誌だけでした。
「選ばれた美容師」だけが作品を発表し、それを見てお客さんが殺到するという構造だった。
それをリクルートが焼き払った。
時代の流れに乗り遅れた多くのサロンがその後業績を伸ばせなかった。
ホットペッパーの功罪にはいろいろありますが、大枠では情報格差の解消につながり、封建的だったヘアサロンマーケットは消費者にとって健全になった、と考えています。
【まとめ 現代進行形のマーケティングにおいて必要なことはブランディングのみならず。機動力を合わせ持つこと】
さて、ブランドでの差別化が難しくなり、ネット広告での差別化が全盛になった。と書きました。
もちろんそれだけでなく、周縁にはSNS戦略などが転がっているワケです。※長くなるのでまた別の機会に。
現在のヘアサロン業界のマーケティングでは、かつて成立した「ブランド戦略」という聖域は半壊し、次から次へと登場するツールに対する対策が、業績を伸ばせるかどうかの分かれ道となっております。
これを恐怖と捉えるか、チャンスと捉えるかは経営者の器でしょう。
SOCO/AO/SUNでは新しく出たツールは基本的にすぐ試すようにしています。
その中で勝機があると判断すればリソースを投入して一気に攻め込む。
これを幹部ミーティングでは「出し抜く」と言っています。
移り変わりの早い現在のマーケットを攻略するために重要なのは、ブランドを守ることではなく、状況対応できる機動力です。
常にアンテナを張って、必要であればすぐに動くこと。
なんなら、今まで自分たちが積み上げてきた価値を毀損するとしても体制を変えてしまうこと。
上記領域のマネジメントに関しては以下の本に詳しい
クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」
大変勉強になるので興味のある方は是非。
ではまた。
関山