【美容師が年収1000万円を達成するための条件〜経営者編〜】
さて、前回の続きです。
前回は
「プレイヤーとしての美容師が年収1000万円を達成するための条件」
について書きました。
後編では「経営者としての美容師が年収1000万円を達成するための条件」について書いていきます。
今回は前回より長く複雑になります。
複雑な分、美容室経営者を目指す方にとっては必ず勉強になる部分があるはずです。
【本文を読んで理解できること】
・経営者としての美容師が年収1000万円達成するための条件がわかる
・財務諸表を少し読めるようになる
・自分がプレイヤーとしての美容師になるべきか、経営者としての美容師になるべきかが見えてくる。
【経営者としての美容師が年収1000万円達成するためには?】
「経営者としての美容師」が年収1000万円を達成するためには様々な条件があります。
まず前提として「プレイヤーとしての美容師」に比べて短期的に年収1000万円達成することは容易だと言えます。
理由は「レバレッジ」をかけることができるからです。
〜レバレッジとは?〜
「レバレッジ」とは「テコの原理のこと」だと思えばいいでしょう。
みなさん小学校の頃に理科の授業で習ったと思います。
テコの原理を使うと、重たいものでも、比較的簡単に持ち上げることができるようになります。
プレイヤーとしての売上はどんなに頑張っても天井が訪れます。1人のスタイリストが伸ばせる売上には限界があるからです。
上限は月間「数100万〜1千万」の単位でしょう
しかし、経営者として会社全体の売上を伸ばすことはその限りではありません。
「億」の単位まで伸ばすことができます。
そういった意味で、経営者としての美容師は、スタッフを雇い、会社という仕組みを使うことにより、プレイヤーよりさらに大きな単位の力を扱えることになります。
反面、レバレッジを扱えるということは、うまくいかなかった時の反動も大きいということになります。
仮にプレイヤーとして月200万売り上げていて、10%売上が下がり180万になったとします。
下振れ幅は20万です。
これくらいの変動は、会社をやっているとさほど大きい額ではありません。
しかし、会社全体で10%の下振れだと、仮に2000万の月商だとして10%は200万です。
かなり大きい。
「より大きな単位を扱える」というのはそういうことです。
大きな力が発生する分、変動幅も大きくなる。
これが良くも悪くもプレイヤーに比べて年収1000万達成が容易な理由の一つです。
【美容室経営者はどれくらい会社の売上があれば年収1000万達成可能か?】
これを理解するにはまず経営者の属性について理解する必要があります。
前回「プレイヤー編」の冒頭で以下のように書きました
↓
『独立したての時は、月の収入が10万円だったり、100万以上だったり、時にはゼロだったりマイナス50万の時もありました』
これは僕が美容室を出店して2年以内に起こったことです。
なぜこのようなことが起こるかというと、経営者にも2つのパターンがあるからです。
1.個人事業主
2.法人の代表
この2つです。
以下2パターンの詳細について書いていきます。
1.【個人事業主】
美容室を独立開業するとして、初めはこの「個人事業主」で事業をスタートする人がほとんどだと思います。
なぜ個人事業主からスタートなのか理解するためには、税金に関する知識が必要です。
それについては本記事では長くなるので書きません。
まず個人事業主の給与体系は
売上 − 経費 = 個人事業主の所得
で成り立っています。
冒頭で書いた
『独立したての時は、月の収入が10万円だったり、100万以上だったり、時にはゼロだったりマイナス50万の時もありました』
これは「個人事業主」だから起こります。
売上の調子がいい月は大きく所得が増えるし、少ない時は減る。時にはマイナスになる。
このように個人事業主の所得は大きく変動し安定しません。
単月で儲かったから喜ぶ、売上が下がったから落ち込むようでは経営者は務まりません。
1年を見据えて事業の計画を立てなくてはいけません。
【法人の代表】
「法人」とは聞き慣れない言葉かもしれません。
皆さんよく知っている言葉だと「株式会社」のことです。
他にも法人には「有限会社」(現在は設立できない)「合同会社」などがあります。
これについても会社設立法の知識が必要ですが、本記事では書きません。
興味がある人は「法人 法人格」でググってみてください。
個人事業主は経営者ではありあますが、法的には社長ではありません。
現代的にいうとフリーランスというワードがそれにあたるでしょう。
皆さんが世間的に知っている社長の多くがこの法人の代表=社長ということになります。
個人事業主の所得算出は先ほど述べた通り
売上 − 経費 = 個人事業主の所得
となりますが
法人の社長の所得は「役員報酬」となります。
役員というのは会社の役員=代表取締役・取締役専務・取締役常務・取締役執行役員などのことです。
この人たちの給与は会社の業績で変動しません。
月額定額です。
法人の決算時期に翌年1年分の給与(役員報酬)を決めます。
また決めた役員報酬は原則変えられません。
また、役員賞与(ボーナス)を設定することができます。
こちらに関しては原則年最大3回と決められています。
(※実際には賞与支給回数は何回とは決められてはいないのですが、税制上不利になる可能性があります。興味のある方は「役員報酬 回数」でググってみてください)
法人の代表取締役の場合、個人事業主と違い、報酬の変動がありません。
ここが大きな違いとなります。
前置きが長くなりましたが、これから本題である
「経営者としての美容師が年収1000万達成するための条件」
について書いていきます。
【経営者としての美容師が年収1000万達成するための条件〜具体例〜】
さて、個人事業主と法人の代表取締役の報酬体系の違いについて書きました。
個人事業主=変動
法人代表=固定
かなり給与体系に違いがあることはわかっていただけたかと思います。
年収1000万を達成するためには月収84万が必要であることは前編で書きました。
個人事業主であれば、年間を通して平均84万円以上の利益が出ていれば達成できます。
法人代表であれば役員報酬を月額84万円に設定すれば達成できます。
もしくは月額報酬と賞与合わせて1000万に設定すれば達成できます。
それは当たり前のことなので
「どれくらいの事業規模であれば、もしくは何店舗あれば美容室経営者は年収1000万円を達成できるのか?」
について書いていきます。
【美容室経営者が年収1000万円を達成するためには?利益率が重要】
まず結論から述べると
美容室1店舗でも年収1千万円は達成可能
です。
個人事業主であろうが、法人であろうがです。
問題なのは利益がどれくらい会社に残るかです。
利益がどれくらい会社に残るかを計る指標を「利益率」といいます。
年商1億の会社の利益率が役員報酬を含めずに10%であれば利益は1000万円残ります。
そうすると社長は1000万円の年収を取っても会社を存続させることができます。
ただ広告費の高騰などもあって、美容室の利益率は年々下がっています。
当初利益率については簡潔に書こうと思っていました。
そこで「美容室 利益率 平均」でググってみましたが、まとまったわかりやすいソースが出てきませんでした。
それどころか、データ担保の取れていないかなりデタラメな数字を並べた記事がほとんどでした。
それらによると、業界平均10%だの、儲かってるところは20%〜40%だの書かれていたのですが、ありえません。
上記ワードで検索した時に上位表示される記事は「釣り」記事です。
ネットメディア・税理士・美容室コンサルによる集客・アフィ目的の記事なので、騙されないようにしましょう。
便宜上単純に「利益率」と述べてきましたが、利益率にも色々な種類(粗利・営業利益・経常利益・当期純利益など)があるので、どの分野での利益率なのかによって考え方がまったく異なってきます。
そういったことを知らずにネットの情報を鵜呑みにして独立すると会社を潰します。
利益率の詳細を知りたい方は「会計」を勉強しましょう。
ということで僕の手持ちのデータで、より信憑性のあるソースを出します。
当初の予定より長く複雑になりますが、美容室経営者を目指す方は、以下の詳細を理解した方がより明確な経営判断につながるでしょう。
そこまで興味がない方は読み飛ばしていただいて結構です。
【BAST 分析 東京23区 年商5000万〜1億】
こちらの分析表は東京23区の年商5000万〜1億の美容室における実際の損益計算書です。
サンプルは39社。すべて法人です。
見にくくて申し訳ないのですが、それぞれ「優良企業平均」「黒字企業平均」「欠損(赤字)企業平均」「全企業平均」が並んでいます。
これを見るとわかりますが、全企業39社に対して、19社、約半数が赤字となっています。
この段階で美容室経営がどれくらい厳しいかがわかるでしょう。
ではその下に注目してください。
「H1A」と青文字で書かれている部分。
こちらが役員報酬です。
左から「優良企業」9733
単位は千です。
これは優良企業3社の役員報酬平均が年間973万3千円だということです。
その右、黒字企業は8377
その右、欠損企業が7763
その右、全企業平均が8078
この表を見てわかるとおり、 東京23区における事業規模年商5000万〜1億の美容室経営者の年収平均は
807万8千円となります。
結論としては年商規模1億以下の美容室の経営者が年収1000万円を超えることは難しいということです。
ということは業界平均で考えると、美容室経営者が年収1000万円稼ぐには
最低でも年商1億円以上は必要
ということになります。
月商で840万円〜くらいです。
40坪くらいのハコを借りて12席くらいのセット面を用意して、商売がうまく回っていれば、1店舗でも年商1億以上、役員報酬1000万以上は達成できる可能性があるといえます。
さて、続いて利益率について分析していきましょう。
その下の青字「H1B-1〜H1B-4」を見てください。
この青丸で囲まれた部分が利益率です。
中でも「経常利益」と呼ばれる利益率です。
優良企業10.1%
黒字企業5.9%
欠損企業−2.0%
業界平均1.8%
となっています。
どうでしょうか?
このパートの冒頭で述べた利益率の業界平均10%とか20%〜30%という数字がどれくらいデタラメかお分かりになるでしょう。
年商規模5000万〜1億の美容室の平均経常利益率はわずか1.8%です。
1億円の年商があっても年間で残るお金はわずか180万円。
さらにここから「法人税」がかかってきます。
法人税を差し引くと、ほとんど会社に利益は残らないという計算になります。
もちろん経費で利益を圧縮し、節税している可能性もあります。
しかし、そういった経営者は店舗出店や次の投資に消極的な経営者といえます。
これらを詳しく知りたい方は「会計」「税務」の分野を勉強すればいいでしょう。
【BAST 分析 東京23区 年商2億5000万〜5億】
SOCO/AO/SUNの現在の年商ベースは2億5000万〜3億くらいです。
ざっくりですが、このくらいになると経営者は年収1000万以上を給与として会社からいただいても、次の投資にお金を回せるようになるでしょう。
以下その根拠について書いていきます。
まず、先ほどと同じように東京23区 年商2億5000万〜5億の美容室のBAST分析表を添付します。
↓
こちらは先ほどよりサンプルが少ないのですが、年商2億5000万〜5億の美容室10社が対象となっています。
こちらの青字「H2A」をご覧ください。
黒字企業22691
欠損企業23110
全企業平均22859
ということで、2億5000万〜5億の事業規模の美容室の役員報酬の平均は
2285万9千円となります。
大きく年収1000万円を超えてきました。
ただ、一つ注意していただきたいのが、先ほどの年商5000万〜1億のBAST表でもそうですが、役員は1人とは限りません。
仮に2人役員がいる場合は先ほどの2285万9千円は2つに分配されます。
3人いれば3分配されます。
これくらいの事業規模になると複数役員がいるケースもあるでしょう。
役員報酬の分配比率はそれぞれの会社によると思いますが、仮に1人の代表取締役で会社を運営しているのであれば、社長の年収は2000万円超えということになります。
残念ながらそこまではこの分析表では追うことはできません。
ではその下、経常利益率を見てみましょう。
H2B-1 〜 H2B-3の部分
黒字企業の平均利益率6.8%
欠損企業の平均利益率−8.2%
全企業平均3.3%
となっています。
「平均3.3%」
年商5000万〜1億規模の美容室よりは高い利益率ですが、この規模でもかなり低い利益率となっています。
どれだけ美容室経営で利益を残すことが難しいかわかるでしょう。
【利益率のレトリック】
上記BAST表を見てわかるように、年商と利益率というのは大きなレトリック(まやかし)をもっています。
A社, 年商5000万・利益率20%
B社, 年商1億・利益率10%
A B共に利益は1000万です。
この二つは会社の市場価値としては「同じ」ということになります。
しかし、世の中的に年商1億となると「おぉーすげぇ」となりがちです。
テレビ番組でもそういった社長が出てくるでしょう。
でも、年商にはあまり意味がありません。重要なのは利益率です。
100億円の売上があって、利益率0.1%の会社と
1億円の売上があって、利益率10%の会社
人的リソースや所有資産などを考えずに暴力的に述べると、これも市場価値としては同等と言えます。
重要なのは市場に対してどれくらい優秀なビジネスモデル(利益率や仕組みなど)を会社が所有しているか?
ということです。
【続 ・ SOCO/AO/SUNが3年で3店舗出店できた理由と、僕の役員報酬について】
以前ブログでSOCO/AO/SUNが3年で3店舗出店できた理由について書きました。
【〜逆張りのススメ〜競争優位を獲得する SOCO/AO/SUNが3年で3店舗出店できた理由】
このブログの内容以外にも3年で3店舗出店できた理由において重要なことがあります。
冒頭で説明した会社形態の中で、うちはすでに「株式会社(法人)」です。
僕の給与は役員報酬=月額定額です。
僕の役員報酬は月額20万円に設定しています。
※これには社会保険上の対策もあります。
社会保険や所得税などを引くと、手取りで15万くらいです。
というのも家の家賃は事務所費として7割経費計上されています。
実際に税理士との打ち合わせや、会社関係の重要書類は家にあって、PCを使って自宅で仕事することが多いからです。
ほかにも仕事の打ち合わせなど飲食費の一部は経費計上できます。
もともと物欲があまりないし、ご飯もコンビニで済ませることが多いです。普段からお金をあまり使わないのです。
月15万の手取りでも十分にやっていけます。
ではなぜ1000万の年収を超えるかというと「役員賞与(ボーナス)」で会社から年2回大きな額を支給されているからです。
しかし、役員賞与も会計処理上一旦は自分の口座に振り込むのですが、すぐに会社の口座に戻します。
これは「役員借り入れ」と言って、会社側の借金となります。
なぜそういったことをしているかというと、会社に投資しているからです。
僕はお金がたくさん口座にあってもあまり使うことがありません。
お金のほとんどを、会社に貸し付け、出店など次の投資に回します。
自分の消費のためにお金を使うことにあまり興味がありません。
会社の投資、さらにいうと、会社の成長スピードに興味があります。
時間を買うために、自分の所得の多くを会社につぎ込んでいます。
これが3年で3店舗出店できた理由の一部です。
【経営者としての美容師のワナ】
さて、これまで経営者としての美容師が年収1000万円達成するための条件について色々と書いてきました。
かなり本文が長くなってしまったので、これを最後のパートにしたいと思います。
結論から述べると、プレイヤーとしての美容師より、経営者としての美容師の方が年収1000万到達するまでのスピードと、天井がないという意味で可能性があると言えます。
しかし、美容室の廃業率を見てみましょう。
1年で廃業→全体の約60%
3年で廃業→全体の約84%
10年以内廃業→全体の約95%
ソースが浅くて申し訳ありませんが、この数字は業界で昔から言われていることです。
さらに、10年存続が5%だとして、その中で年商1億を超えて社長が1000万の年収を超える美容室はどれくらあるでしょうか?
BAST表を見ればわかるでしょう。おそらく1%以下。
生き残った美容室の多くが、業績を伸ばせず1店舗のまま10年以上存続してるケースが多い。
そうすると、美容室経営者となり、10年後に1000万の年収を稼いでいる美容室経営者は全体の1%以下の可能性が高いと言えます。
この数字。どこかで見覚えがありませんか?
そうです。前回述べた、プレイヤーとしての美容師が年収1000万達成する比率と同じなのです。
これで結論がでました。
年収1000万円達成する難易度はプレイヤーとしての美容師と経営者としての美容師共におそらく同等だと言えます。
冒頭で「短期的に」と書いたのはそのためです。
短期的に年収1000万円達成するのはレバレッジをかけれる分、経営者としての美容師の方がプレイヤーより容易かもしれませんが、中〜長期となるとデータを見る限り難しいかもしれません。
【まとめ】
ではそろそろまとめに入ります。
上記の仮説・結論がわかったうえで。
どのように自分の美容師としてのキャリアをデザインしていけばいいでしょうか?
・ プレイヤーとしての美容師
・ 経営者としての美容師
僕が思うにそれぞれ「適正」があります。
「僕の美容師としての能力は客観的に見ての中の下くらい。プレイヤーとしての適正は低かった」
ということは以前ブログで書きました。
【自信がない人のためのリーダーシップ論 〜誰でも店長・経営者になれる〜】
しかし、経営者としての適正はそれなりに高い方だと自負しています。
理由としては、今まで自分でマネジメント、マーケティング、会計、税務などを勉強してきて、経営者として必要な知識を学んできたからです。
プレイヤーとしての美容師に必要な資質と経営者としての美容師に必要な資質はまったく違います。
『名プレイヤー名監督ならず』というやつです。
もし自分がプレイヤーとしての才能の方が高いと思うのであれば、そちらを伸ばしていった方が年収1000万円を超える可能性が高く、所得も増えるでしょう。
もし自分にプレイヤーとしての能力に限界を感じていて、経営者として所得を伸ばしていきたいのであれば、経営の分野を徹底的に学習することです。
また、経営者・プレイヤーがそれぞれの能力を認め合ってパートナーとなることが成功のカギです。
「優秀なプレイヤーは優秀な経営者と組むこと」
「優秀な経営者になりたければ優秀なプレイヤーを見つけること」
こうすることで互いに所得を伸ばしていくことができます。
以上。経営者としての美容師が年収1000万円達成するための条件でした。
関山